親が還付金詐欺に遭った。その手口と考察

 「お父さんが騙された」

 そんな文面のメールが母親から届いたのは6月末のこと。父親がお金を騙し取られたというのだ。事情を聴けば還付金詐欺だった。 まさか自分の身内が詐欺に引っかかるなんて、という決まり文句のような感想が頭をよぎる。今回はその還付金詐欺の手口を、同じような被害を出さない為にも記していこうと思う。

※これは父親の話をもとに書いています。あくまで一つの事例としてお読みください。また当日の隅々まで全てを記憶しているわけではないのであやふやな部分もありますご了承ください。

還付金詐欺、ざっくりと説明

 還付金詐欺は、架空請求詐欺、オレオレ詐欺など電話を使って相手に金銭を振り込ませる特殊詐欺のひとつ。金銭の支払いや口座への振り込みを直接要求される「振り込め」系の詐欺とは違い、お金を受け取ることが出来るとの説明から安易に騙されてしまう。高齢者が特に狙われる。

 確定申告や年末調整で払い過ぎた税金が戻る、健康保険の還付金がある、と言った誘い文句に誘導されて、最初の目的とは裏腹に気が付けばATMで犯人の指定口座に現金を振り込んでしまうのだ。

 還付金詐欺は令和になって出てきた犯罪じゃない。2006年くらいから既に存在しているまぁまぁ有名な詐欺で、テレビ・新聞、銀行で注意を促しているのにそんな簡単にATMに誘導して振り込んでしまうものなのか・・・というのが個人的に疑問だった。 実際に父親の証言を元に起こった事を整理した。

実際の手口詳細

 出来事、やり取りを時系列で記してみると以下の通り。

「健康保険組合」を名乗る男から自宅に入電

 6月の某日、土曜日。自宅の父親あてに「○○健康保健組合」と名乗る男から電話が入る。

「保険の還付金に関する書類を送りましたが返送がありませんでした」

「グリーンの封筒で送っています」

 男は30代くらい。「○○健康保険組合」の○○には自宅の地域名が入る(例えば大阪市淀川区ならば淀川健康保健組合のようになる)。しかし着信は03からであったようだ。関西圏に住んでいるのにそこは怪しまなかったらしい。グリーンの封筒の話は真実味を出す為の演出だろう。

ATMへ誘い出す

 次に電話の男にこう言われる、還付金の書類返送期限は5月31日までだったと。電話があったのは6月下旬、つまり返送期限を過ぎているという事になる。そこで男が続けて次のように説明するのだ。

「ATMで用紙を出力し窓口に持って行けば、還付金が口座に振り込まれます」

 この言葉はまさに、狙った獲物をATMへと誘導する巧妙な話術といえよう。 よくよく考えてみると窓口に書類を提出する為になぜわざわざ一旦ATMを挟まないといけないのか疑問であるが自分もその当事者だったら冷静に考えられたかは分からない。

銀行の確認

 次に受取口座の銀行を尋ねられる。父は「××銀行」と回答したのだが、これは全国的なメガバンクではなく地方銀行だった。 すると男は××銀行がATM対応可能か確認するといい一旦電話を切った。

 これはおそらくこの後で展開されるATM操作案内の際に、うまく誘導する為××銀行の操作画面の資料や画像が準備できるか確認していると予想される。 すぐに再度同じ男から対応可能だとの返事の電話が来た。

 そして父親はその足で銀行ATMに向かう。後からの話では「期限が過ぎているので早く手続きした方がいいと思った」と言っている。 ひょっとしたら男に、早めに手続きしてください等と促されたのかもしれない。

 実際に××銀行へ到着。今度は父が携帯から相手に電話をかける。ここで重要なのはこの日が土曜日だという事だ

 もし平日ならATMで電話しながら操作している客がいれば係りの人の目にとまるし、ATM操作を窓口に直接相談もできる。しかし土曜日や日曜日はATM以外は営業していない。そこには第三者的な相談相手はいないのだ。

ATMで操作をさせる

 ここについては父親も、相手の細かい説明手順や言いまわしを全て正確には覚えていないとの事だが、まずは大まかな手順を箇条書きにした。

  • 父の口座の情報を開かせ残高を言わせる
  • 残高情報からそれより若干少なめの金額を男の指定口座に振り込ませる

 そう、やっていることは文字にすると至ってシンプルなのだがこの二つの手順を案内する際の男の説明というか誘導が要となる。ポイントは以下3つ

  • 操作ボタンは「名称」ではなく「場所」で
  • 「残高」や「振込金額」は"番号"と言い換えて説明する
  • 振込先と振込元を逆にして案内する
 操作ボタンは「名称」ではなく「場所」で

 ATMの操作画面上には「お預け入れ」や「お振込み」等といった名称のボタンがあり手続きの選択が出来るようになっているが、例えば残高照会の操作をさせる時には「左の上から2つ目のボタン」といった案内でボタンを押させる。決して「振り込み」「残高照会」という言葉を使わない。

「残高」や「振込金額」は"番号"と言い換えやり取り

 ボタン操作を誘導して残高照会の画面を出した際に「表示されている番号を教えてください」と言ってくる。その番号を答えさせ、犯人は簡単に残高情報を得ることが出来る

 同じように振り込み画面に誘導すると今度は「識別番号」「取引番号」と称して振込金額を入力させて振り込みを実行させる

「この識別番号を入力して次の画面に進んでください」

 上記のような言い回しで、お金のやり取りをしている事を被害者側に気づかせずにあくまで事務手続きのように思わせる為の作戦だ。

 振込先と振込元を逆にして案内する

いくら説明が巧妙とはいえ、途中の操作画面には「振込金額入力」等のように現在の手続きについて案内の文字も出てくるだろうし、正直そんなにうまくいくものなのかと思ってたが、これがポイントだった。 父の銀行口座の残高確認の際には

「還付金が振込まれる口座情報を入力します」

と言って口座残高を確認し、振込先になる犯人側の口座情報を入力させるには

 「振込元の口座情報を入力します」

と言って、“識別番号”と称した振込金額を入力させているのだ。つまり犯人側から父親側に振り込む為の事務手続きと思わせながら実際は父親から犯人側へ振込操作をしてしまっているという巧妙な手口なのだ。

相手側、振込先の口座のからくり

 振込先の口座を調べれば直ぐに犯人を特定できるのではないか、そう考える人も多いかもしれないが、振込先の口座名義は全部カタカナで、名前から察するに東南アジア系の人の口座のようだった。(ここで怪しいと思ってほしかった、、)

 これはおそらく、留学などで短期的に日本に滞在していた外国人等から口座を買い取って使い捨てで使用しているのではないかと推測される。

事の顛末と警察の話

 こうして父親は犯人の口座におよそ34万円を振り込んでしまった。ATMから出力されたのは手続きの用紙ではなく当然「ご利用明細書」のみ。さすがに父はここで騙された事に気づいて警察へ行った。

 ひとつ前の項目で説明したとおり、犯人の口座は使い捨ての為もちろん本人名義ではない。振り込まれたお金は「出し子」がすぐに引き出す為、警察が口座凍結をする頃には振り込まれた現金はもう引き出された後になる。参考 出し子とは

 振り込んだ現金については、犯人が捕まり取り返せるお金があれば被害者全体で等分するという事らしい。もしお金が戻ってきたとしても半年ぐらいはかかるとの事だ。

 他には狙われるタイミングとしては年金が入る偶数月15日の少しあとの土日が多いとの事。6月の下旬の土曜に狙われたので話の通りだ。

今回伝えたかった事

 還付金詐欺なんて過去のものだと思っていた。 これが最初に身内が被害に遭って思った正直な気持ちだった。そんなもんまだあるんかよ、って。
 オレオレ詐欺に代表されるような特殊詐欺は暴走族と同じくらい、いまだに世の中にはびこっているのが現状で今回はそれを知ってもらいたくて記事にした。 おそらくこれを見ているあなたは被害には遭わないだろう、しかしあなたの両親・親戚の高齢者が近くにいたら是非

「還付金詐欺は健在」

「ATMで現金は戻らない」

と一度話題にしてほしいと思う。STOP!特殊詐欺!