あれは20代の前半、小説とか物語的な本は全く読まなくなった時期があった。というか、物語なんてダサい、そんな作り物の話よりもノンフィクションとか実用書の方が何億倍も為になる…とかいう絶望的な尖り方していた時に出会った書籍。
大学を出て就職せずにアルバイトと音楽活動の繰り返しの日々の中でこの先の人生について、生き方について、いやでも考えてしまう時(今でも常に考えているが)。
この本に目が止まったのはその時期に電車の中吊り広告とかでよく見たことがあるイラストがその表紙にあったからだ。 「大人たばこ養成講座」というJTの広告。たばこの作法をポップなイラストで伝えるもので当時喫煙者だった自分にはとても記憶に残るものだった。(下記はかなり以前のものになるがイラストレーター寄藤文平さんの投稿から)
そんな広告のイラストを描いていた寄藤文平さんの著作がこの「死にカタログ」だ。
この本は約150ページ。全体の半分が文章、もう半分が彼本人のイラストで構成されているから読みやすいしわかりやすい。
国や地域時代によってとらえ方の異なる「死」のかたち。ある信仰では輪廻転生だったり、ある地域では鳥に乗って天国へ行くことになったり、またある地域では死人は最初からいなかった事になったり。そんな違いをイラストでポップに教えてくれる。
昔から自己啓発本が好きではないので、そういった類の書籍は買わないし読まない。この本にはそういった空気は全くないし、スピリチュアルな雰囲気もない。そして学術的な深刻さというか堅苦しさもない。
まさに ”普通の顔をして読める「死の本」”(本文引用) なのだ。
そしてこの本は、「こうあるべきだ」「~にちがいない」といった結論を断定するような文言ではなく、「こうなのかもしれない」「~らしい。」といった考えや推察を提供する内容が主となっている。そんな中でとても納得したり、ストンと腑に落ちた部分がいくつもある。
人間はここ100年間で寿命が飛躍的に伸びた。 特に日本は80年くらいは生きられる時代、しかし人間の老化のスピードは以前と変わらない。「老人」である時間が長くなったという。
“気持ちとカラダの終わりがズレる” (本文引用)
野生の生き物はカラダの寿命が死のタイミング。しかし医療技術の発達した現代の人間は死のタイミングを決めるのは本人や周りの人だったりする。
いつ死ぬか、というよりかは「どこで生きるのをやめる」か考えておくべきかもしれないということだ。そのためにはどのように「死」に向かって生きてゆくか、つまり「死」を見つめる事で生き方を考えることになるということだ。そう感じた。
“毎日ちょっとづつ折りたたんでおく” (本文引用)
やりたいこと、やるべきこと。未来に必ずやってくる「死」に向かって少しづつ消化しておくべきだという事だろう。いつ死んでもいいように、、というのは少し大げさかもしれないがちょっと頭の片隅に「いつか必ず死ぬんだ」と考えておくだけで毎日丁寧に過ごせるようになるんじゃないかなと。
最後にこれは自分なんかが評価するようなものではないかもしれないが、デザイナーさんなだけあって本全体の色使いと統一感が素敵なのだ。薄クリーム色ベースに黄色と濃いめの緑色のツートンカラー。そんな手に取りやすいポップな本なのに10年以上も私のココロに残り続ける考え方。
ハードカバーの単行本は中古しかないようだが文庫本は今でも手に入るので是非読んでみて欲しい。
コメント